本記事は金融庁の公表資料に基づく一般的な情報の整理であり、税務相談・投資助言ではありません。「要望」は決定の前の段階で、実現するかは年末の税制改正大綱で決まります。

2026年8月31日、金融庁が令和9(2027)年度の税制改正要望を公表しました。毎年8月末の恒例行事で、各省庁が「来年の税制をこう変えてほしい」と財務省に出すお願いのリストです。昨年のこのリストに載った「暗号資産の申告分離課税」が年末の与党大綱で方向決定までいった実績があるので、暗号資産を持っている人間としては毎年読んでおくべき文書です。原文PDFを読んだので、要点を整理します。

今年の主な要望項目(原文p.1)

柱は三つあります。一つ目は「資産運用立国」の推進で、NISAの利便性向上等/銀行等の投資専門子会社による中小企業出資の特例/金融所得課税の一体化(損益通算範囲の拡大)が入っています。二つ目は子育て世帯への支援で、生命保険料控除の拡充の恒久化等です。三つ目は金融イノベーションの推進で、特定信託受益権(信託型ステーブルコイン)に係る所要の措置が挙がっています。

「暗号資産の税金」が見当たらない

気づいた人もいると思います。昨年の要望の目玉だった暗号資産取引への申告分離課税(いわゆる20%)は、今年のリストに載っていません。

理由は、分離課税への移行がすでに令和8年度の税制改正大綱で方向が決まり、「要望」の段階を卒業したからです。税の側は所得税法等の一部を改正する法律(2026年3月31日成立)で、前提の金融商品取引法の改正は2026年7月15日成立・7月23日公布の改正法で、どちらも法律になっています。いま待っているのは、金商法の改正の本体を施行する日を決める政令です(公布から1年以内)(詳しい経緯と「いつから」はこちらの記事)。

実務上の注意はこれまでと変わりません。2026年分の利益は、まだ雑所得・総合課税です。「20%になったらしい」で申告すると誤りになります。

今年の暗号資産関連は「ステーブルコインの実務」

代わりに載ったのが、特定信託受益権(いわゆる信託型ステーブルコイン)の税務調書の話です(原文p.6)。

現行の相続税法・所得税法では、信託の受託者は受益者(=保有者)の氏名や信託財産の価額を記載した調書を税務署に出すことになっています。ところが信託型ステーブルコインは、円と価値が連動する決済手段として、不特定多数の間を転々と流通する設計です。受託者(信託銀行)が「いま誰が保有者か」を逐一把握して調書を出す建付けでは、そもそも回りません。そこで、受益者別調書・信託の計算書の提出を不要とする措置を要望した、という内容。

地味に見えますが、円建てステーブルコインを決済に使える環境の地ならしにあたる項目。税務の配管が通らないと、制度上は発行できても実用には耐えない状態。その他の項目にも「一定の外国発行の信託型ステーブルコインを電子決済手段として規定することに伴う所要の措置」(p.7)が入っていて、今年の金融庁の暗号資産まわりの関心は「投資家の税率」から「決済インフラの整備」へ移った、と読めます。

ついでに拾っておく2点

一点目は、NISAの非課税保有限度額の「当年中の復活」です(p.2)。現在はNISA内で売却すると枠が翌年まで復活しませんが、これを同年中に復活させる要望(継続要望)が出ています。実現すれば売却→買い直しの自由度が上がります。暗号資産はNISA対象外なので直接は関係ありませんが、資産形成の土台側の話として拾っておく項目。

二点目は、金融所得課税の一体化です(p.4)。損益通算の範囲をデリバティブ取引・預貯金等に広げる要望で、対象として挙がっているのは金融商品のデリバティブです。暗号資産への言及はありません。「暗号資産の損失も株と通算できるようになる」という話では(今のところ)ないので、拡大解釈にご注意を。

「要望」の読み方

8月の要望は各省庁の希望リストにすぎず、12月の与党税制改正大綱に載って初めて「方向決定」、その後の法案成立で「確定」します。昨年は要望(8月)から大綱での決定(12月)まで一気に進みましたが、載らずに消える要望も毎年あります。この記事で書いた内容は、すべて「金融庁がそう要望した」という事実で、決定ではありません。年末の大綱が出たら、また原文を読んで報告する予定。


本記事は2026年8月31日時点の公表情報に基づきます。暗号資産は価格変動により損失が生じるおそれがあります。詳細は免責事項をご覧ください。