同じコインが取引所で25%違うのに、200日誰も取れなかった理由
目次
本記事は私自身の運用の記録であり、投資助言ではありません。特定の銘柄や取引所を勧めるものでもありません。掲載する数字は特定期間の観測値で、将来の成果を示すものではありません。暗号資産は価格変動により損失が生じるおそれがあります。
結論を3行で。
- 2026年5月4日、同じコイン(ENJ)が bitbank で 10.50 円、OKJ で 8.40 円でした。差は 25% で、安い方で買って高い方で売れば、それだけで 25% です。
- 取れない理由は、同じ名前のコインが 2 つの別のブロックチェーンに分かれていることでした。OKJ から外へ出せるのは新しいチェーンの ENJ だけ、bitbank が受け取れるのは古いチェーンの ENJ だけで、儲かる方向の送金だけが物理的にできません。
- だから差は縮まりません。2026年2月15日から9月2日までの 200 日のうち、122 日(61%)で差が 20% を超えたままでした。
見つけたのは、私のお金を運用している AI でした
私は自分の口座の売買判断を AI(Claude)に丸投げしています。その AI が 8 月末から 9 月上旬にかけて、「戦略の中身以外で、個人が勝てる場所は無いか」を調べていたのです。国内外の取引所の価格を並べると、気配の値段だけなら 0.15% を超える差がある組み合わせが 42 組見つかりました。板を実際に歩いて手数料を引くと 8 組に減って、その 8 組も全部消えました。
戦略の中身の方を疑わせる作業も、同じ時期に進めていました。そちらは 8 つの仮説を 1 日で検証して 5 つを捨てる結果になっています(その記録)。
消えなかったものが 1 つだけあります。それが ENJ の 25%。
私は「これはやらないの?」と聞き、AI の答えは「やらない」でした。その理由がこの記事。
なぜ「同じコイン」が 2 種類あるのか
ENJ に流通するネットワークは 2 種類。もともとは Ethereum のネットワーク上のトークン(ERC20 という規格)でした。その後、発行元が自前のネットワーク(Enjin Relay Chain)を作り、ENJ をそちらへ移行させました。
ここが肝心で、移行は一方向でした。Ethereum 版から独自チェーン版へ移す仕組みはあっても、独自チェーン版から Ethereum 版へ戻す公式のブリッジはありません。取引所ごとに、「どちらのネットワークの ENJ を扱うか」も違います。
bitbank 自身が、この価格差を 2025 年 8 月 13 日に注意喚起しました。原文をそのまま引くと、次のとおり。
2025年8月6日時点において、当社で取り扱うエンジンコイン(ENJ)の価格が、他の取引所におけるENJ価格と比較して、約20%の乖離が発生していることを確認しております。現在、当社ではイーサリアムネットワーク上のENJ(ERC20)を取り扱っておりますが、多くの国内外の取引所では、Enjin Relay Chain上のENJも対応しております。しかし、現時点では、Enjin Relay ChainからERC20への公式なブリッジ手段は提供されておらず、チェーン間の移行が困難な状況にあります。(中略)当社では、Enjin Relay ChainからのENJの入出金には対応しておりません。
— bitbank「【注意喚起】エンジンコイン(ENJ)の価格乖離について」(2025年8月13日)
名前は同じ ENJ でも、bitbank の ENJ と OKJ の ENJ は、ティッカーが同じだけの別の資産。
取引所の入出金ルールを並べると、一方通行になる
OKJ の公式の入出金ルールを確認すると、ENJ の出庫(外へ送る)は Enjin Relay Chain の 1 行しかありません。入庫(受け取る)は Relay Chain と ERC20 の両方に対応していて、ERC20 の入庫は 2025 年 6 月 18 日からです。
| 方向 | OKJ 側 | bitbank 側 | できるか |
|---|---|---|---|
| OKJ で買って bitbank で売る(儲かる方向) | 出庫は Relay Chain のみ | 入金は ERC20 のみ | できない。送れば戻ってこない |
| bitbank で買って OKJ で売る(損する方向) | ERC20 の入庫に対応 | ERC20 で出金できる | できる |
安い方の取引所(OKJ)は独自チェーン版しか出金できず、高い方の取引所(bitbank)は Ethereum 版しか入金できません。ネットワークが違うので、届かない仕組み。逆方向なら Ethereum 版どうしでつながっていますが、それは高く買って安く売る向きになります。
これが「一方通行の弁」。安い方へ流す送金だけが許されているので、差は縮まりません。
200 日の記録
2026年2月15日から9月2日まで、両方の取引所の日次の終値で差を計算しました。差の中央値は +25.0%(bitbank の方が高い)、最大は +87.3%。差が 20% を超えた日は 200 日中 122 日(61%)、5% を切った日は 200 日中 6 日。bitbank の方が安かった日は 4 日(2%)で、2 日続いたことは一度もなし。
最後の数字が、この話の裏付けです。逆向きに開いた日は、送れる方向なので翌日には消えています。送れない方向に開いた差だけが、200 日残る結果。
取れないから残っている「うまい話」
まともに裁定できる価格差が 200 日も続くことはありません。続いているという事実が、誰も取れないことの証明になります。
もし OKJ で ENJ を買って bitbank のアドレスへ送っていたら、bitbank は「対応いたしかねます」と明記しているので、そのお金は戻りません。1 万 5 千円入れていれば、得られるのは 25% の利益ではなく元本の全損(−100%)でした。
私の AI がこの案件で最初にしたのは、値段を比べることではなく、送金できるネットワークが一致しているかの確認でした。値段の差は目に見えますが、ネットワークの不一致は、入出金のルールを読まないと見えません。
だから私の AI は、きょうも何も買っていません。それでいいと思っています。
この記事の数字の出どころ
価格は、bitbank と OKJ の公開 API の日次データ(2026年2月15日〜9月2日、200 日)。bitbank の注意喚起は公式ブログ「【注意喚起】エンジンコイン(ENJ)の価格乖離について」(2025年8月13日)、OKJ の入出金ルールは同社の入出金ページの公開データ(ENJ の出庫ネットワーク)を使いました。「42 組 → 8 組 → 0」は私の運用システムの調査記録で、板の厚みと各社の手数料表を使い、実際に約定できる量で計算した結果。
繰り返しますが、これは特定の取引所やコインを勧める記事ではありません。「価格差があるから儲かる」と考える前に、送金のネットワークが一致しているかを確認してください、という記録です。
訂正(2026-10-14): 見出しの「私のお金を運用している AI」は、実口座の期間(2026-08-19〜09-06)の表現です。実口座での売買は2026-09-06に終え、9月7日からは同じ規則を紙上(実際のお金は動いていません)で続けています。